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過去 9

Author: 煉彩
last update Last Updated: 2025-10-07 22:22:34

 アパートに着き、部屋の前でノックをする。

 加賀宮さんは出てこない。

 寝てるかな?

「ごめん。私だけど!」

 ノックをしながら声をかけた。

 すると――。

「どうした?」

 扉が開き、加賀宮さんが出てきてくれた。

「具合が悪いって聞いて」

 加賀宮さんはとても怠そうだった。

「亜蘭が教えたのか。今日は帰って良いよ」

 そう言って彼は扉を締めようとした。

 なにその対応!

 呼び出したい時だけ呼び出して、あんなことして。

「ちょっと!何それ!あなたが帰れって言っても、帰らないから。都合の良い時だけ私を利用して。あなただけズルい!」

 何てこと言っちゃったんだろう。

 どうして加賀宮さんにはこんな強気なことしか。

「わかった。とりあえず、入って」

 彼は諦め、私をすんなり家の中へ入れてくれた。

 そんなに体調悪いんだ。

 ベッドにポスっと座ったかと思うと

「ごめん。今、美月、大変な時だろ?働きだしたばかりだし。お前も疲れてると思って。風邪もうつしたくなくて。言葉が足りなかったな」

 帰そうとしたのは、彼なりの優しさだったの?

 なのに私は……。

 彼らしくなく素直に伝えてくれたのは、本当に具合が悪いからだよね。

「私こそ、ごめんね」

「いや、いい」

 そう言えば、顔赤い。

 彼はそのままベッドに横になった。

「あー。久し振りに風邪ひいた。辛い」

 加賀宮さんでも弱音とか、吐くんだ。

 早く元気になってほしいけど、素直なところとか、そのままでいてくれればいいのに。

「ねぇ!着替えなよ。ワイシャツより、楽な格好になった方が良いよ」

 彼は相当怠いのか、仕事から帰ってきたままの上着を脱いだ状態で寝ている。

「面倒……」

 恐る恐る彼に触れる。

「熱い。体温計どこ?薬は飲んだ?」

 解熱剤飲んだなら、下がっても良いはずだけど。

「体温計はどっかに……ある。薬は飲んでない……」

 部屋を見渡すも、体温計の場所がわからない。

 薬は机の上にあるけど。

「ご飯も食べてないんでしょ?」

「うん」

「ご飯、うどん作るから待ってて。あっ、寝てても良いよ。そしたらちゃんと薬飲んでよ。スポドリも買ってきたから、水分摂って。近くに置いとくから」

 ご飯食べてから薬を飲んで、ゆっくり休んだ方が良いよね。

「わかった。てか、飯……。作ってくれんの?」

 彼はまだぼんやりと目を開けている
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  • Love Potion   過去 9

     アパートに着き、部屋の前でノックをする。 加賀宮さんは出てこない。  寝てるかな?「ごめん。私だけど!」 ノックをしながら声をかけた。 すると――。「どうした?」 扉が開き、加賀宮さんが出てきてくれた。「具合が悪いって聞いて」 加賀宮さんはとても怠そうだった。「亜蘭が教えたのか。今日は帰って良いよ」 そう言って彼は扉を締めようとした。 なにその対応! 呼び出したい時だけ呼び出して、あんなことして。「ちょっと!何それ!あなたが帰れって言っても、帰らないから。都合の良い時だけ私を利用して。あなただけズルい!」 何てこと言っちゃったんだろう。 どうして加賀宮さんにはこんな強気なことしか。「わかった。とりあえず、入って」 彼は諦め、私をすんなり家の中へ入れてくれた。 そんなに体調悪いんだ。  ベッドにポスっと座ったかと思うと「ごめん。今、美月、大変な時だろ?働きだしたばかりだし。お前も疲れてると思って。風邪もうつしたくなくて。言葉が足りなかったな」 帰そうとしたのは、彼なりの優しさだったの? なのに私は……。 彼らしくなく素直に伝えてくれたのは、本当に具合が悪いからだよね。「私こそ、ごめんね」「いや、いい」 そう言えば、顔赤い。 彼はそのままベッドに横になった。「あー。久し振りに風邪ひいた。辛い」 加賀宮さんでも弱音とか、吐くんだ。 早く元気になってほしいけど、素直なところとか、そのままでいてくれればいいのに。「ねぇ!着替えなよ。ワイシャツより、楽な格好になった方が良いよ」 彼は相当怠いのか、仕事から帰ってきたままの上着を脱いだ状態で寝ている。「面倒……」 恐る恐る彼に触れる。「熱い。体温計どこ?薬は飲んだ?」 解熱剤飲んだなら、下がっても良いはずだけど。「体温計はどっかに……ある。薬は飲んでない……」 部屋を見渡すも、体温計の場所がわからない。 薬は机の上にあるけど。「ご飯も食べてないんでしょ?」「うん」「ご飯、うどん作るから待ってて。あっ、寝てても良いよ。そしたらちゃんと薬飲んでよ。スポドリも買ってきたから、水分摂って。近くに置いとくから」 ご飯食べてから薬を飲んで、ゆっくり休んだ方が良いよね。「わかった。てか、飯……。作ってくれんの?」 彼はまだぼんやりと目を開けている

  • Love Potion   過去 8

    「おい。俺たち管理職だけの情報だろ。キッチンでそんなこと言うなって。他のスタッフに聞かれたらどうすんだよ」 落ち着きなよと平野は小声で彼女をなだめる。「うるっさいわね。私、ああいう女が大嫌いなの。何も努力してないのに、人生上手くいって調子に乗っている系。しかも私の加賀宮社長に馴れ馴れしく……」「お前が社長に憧れてるってのは知ってるけど。九条さんとは一時的な付き合いだけだし、既婚者なんだから、社長だって相手にしないって」 平野は、藤田が社長に想いを寄せていることを知っている。 さらに彼女を激情させないよう、言葉を選びなら和まそうと必死だ。「そうよね。既婚者になんか。社長も優しいから、気を遣っているだけ。うちの会社のためを思ってだもんね」 藤田の肩の力が抜けた。「そうそう。少しの辛抱だから我慢しろよ」「ありがとう。相棒」 彼女のご機嫌は回復したようだった。「俺も加賀宮社長に挨拶に行ってくる」「待って。私も社長の食器を下げに行く!」 想い人に近付きたいと、平野のうしろ姿を追いかける彼女であった。…・…・―――…・・…・―――― 無事に初出勤が終わり、帰宅をする。 見学しているだけだったけど、実際にランチも食べることができたし良かった。 明日もう一日、お客さんの様子、キッチンの様子を見せてもらって、いろんなことをまとめないと。 こんなことで疲れたとか感じちゃいけないんだろうけど、久し振りに充実した疲労感だな。 玄関を開けリビングへ行くと、ソファに孝介が座っていた。「ただいま」 一応、声をかけてみる。「今日は?ミスってないだろうな」 何それ。自分の心配ばかり。「大丈夫だと思う」 私の返答も自然と無愛想になった。「だと思う?お前が感じてないだけで、周りが何か思うことがあったらどうするんだよ!?」 どうしてそう突っかかるの?「大丈夫です。何もありません」 チッと彼は舌打ちした後「夕飯は十九時に準備しろよ。それまで俺、寝てるから」 そう言って寝室へ向かった。 夕飯は美和さんが作ってくれてるから、お皿に盛り付けるだけなのに。   たまには自分が用意しようとか思わないの? 次の日もベガへ出勤した。 空いている時間にリーダーである平野さんと藤田さんに質問をしながら、昨日と同じようにお客さんの滞在時

  • Love Potion   過去 7

     私が席に戻ると、ランチメニューがすでにテーブルの上にあった。  今日の日替わりランチメニューは『大葉とたらこのパスタ』 スープとサラダが付いている。 ランチのみ、プラス二百円でドリンクも選べるようだった。「美味しそう!」 大葉の香りが食欲をそそる。「食べてみて?」 彼の言葉を聞き 「いただきます」 一口、口の中に運ぶ。「んっ!美味しい」  普通に美味しかった。 加賀宮さんはランチボックスを開け、美和さんが作ってくれたおかずを口の中に運んだ。 ちょっとドキドキする。  加賀宮さんを騙しているわけではないが「美月、この前より料理が上手になった?」 なんて言われたらどうしよう。  彼の様子を伺う。  一口、さらに一口食べ。無言。 卵焼きを食べ終わった後に、一回箸を置いた。「これ、美月が作った弁当?」「えっ、どうして?」 うーんと彼は唸り「なんか違う。俺の好きな味じゃない。卵焼きも全然違う」 箸は止まったままだ。「それ、家政婦さんが作ってくれたお弁当なの」 私がそう伝えると「なんだ。美月の作った弁当、食べれると思ったのに」 彼の目線が鋭くなった。「私の料理なんて、あの時食べただけでしょ?どうして違う人が作ったってわかったの?」 毎日食べているのなら、違いがわかるかもしれないけど。「このおかずは味が濃い。なんか雑。下処理とかしてない」 なんか雑って、どういうことだろう。 彩りだって綺麗だし、私もほぼ毎日美和さんのご飯食べているけど、不味いと感じたことはない。「俺、残すの嫌いだから食べるけど」 その後、彼の箸は止まらなかった。「今度、美月が作った弁当食べたい。作ってきて」「へっ?」  なにそれ。 美味しいお弁当くらい、加賀宮さんならすぐ買えるのに。「俺が弁当食べたいって言うのは本音だけど。テイクアウトのプレートも考えてるんだ」 なんだ、そういう理由か。「わかった。今度考えて、作ってくる」 <加賀宮さんに協力する>そう言った事情なら、孝介だって何も言えないだろう。「食材にかかる費用は、俺が出すから」「うん。ありがとう」 ちゃんとそこまで考えてくれてるんだ。 「それで、美月はこのパスタ食べて、どう思った?」「えっと、普通に美味しいなって」「具体的に?」

  • Love Potion   過去 6

     次の日――。「失礼します。はじめまして。九条と申します。よろしくお願いします」 昨日教えてもらったスタッフの控室に入り、中に居た数人のスタッフさんに挨拶をした。 その中には、女性リーダーの藤田さんも居て「昨日はありがとうございました!よろしくお願いします」 明るく声をかけてくれ、他のスタッフさんへ私を紹介してくれた。「今日は、モニターとして実際にお店の雰囲気を見学していただければと思います」 そう言われ、お客さんが座る席へ案内される。「何かあったら遠慮なく言ってくださいね?」 ニコッと藤田さんが笑ってくれた。 藤田さんも綺麗な人だな。 ミディアムくらいの髪の毛をしっかりと結び、お化粧もそんなに濃くない。清潔感のある人。 席に置いてあるメニューを見たり、お客さんの雰囲気などを見て、気づいたことがあったらメモを取っていた。 一人の人が多いな。 お店のBGMは落ち着いた雰囲気だ。 今のところドリンクメニューを頼んで、長時間滞在している人が多い。 本を読んだり、タブレットを見たり、パソコンを開いてたり。 それがランチになると雰囲気がガラリと変わった。 オフィス街ともあり、ランチメニューを頼んで、すぐ食べて帰る人ばかり。 男の人も増えるんだな。 スタッフさんも忙しそうだ。 簡単に作れて、男性もお腹いっぱいになるようなカフェメニュー……。 実際に現場に来て、いろいろ感じることがあった。 ランチも落ち着き、お客さんが少なくなった頃――。 メモを取っていると「すみません。隣、座っても良いですか?」 その声にビクっと身体が反応した。声の主を見る。「お疲れ様です。加賀宮社長」 他のスタッフさんの手前「驚かさないでよ!」と言うわけにもいかない。「お疲れ様です」 加賀宮さんは私の隣に座った。 加賀宮さんの姿を見て、リーダーの藤田さんが「お疲れ様です。どうしたんですか?」 すぐ駆け寄り、加賀宮さんに声をかけた。「お疲れ様です。連絡もなしに、すみません。今日は九条さんが二日目と言うことで、せっかくなので、ベガのランチを一緒に食べようと思いまして。九条さんにも事前に伝えるのを失念してしまいました」 微笑む彼は、柔らかな雰囲気、偽りの加賀宮さんだ。 「そうなんですね!今からランチメニューをご用意します。日替わり

  • Love Potion   過去 5

    「美月に加賀宮社長とか言われるの、不思議な感じした」 耳元で彼が話す。「私だって、九条さんとか言われるの、不思議だった。て言うか、嫌だった。加賀宮さんには、名前で呼んでほしい」 素直に伝えている自分がいる。「俺に……。少しは心開いてくれたの?」「少し……ね」 加賀宮さんは、私の働きたいと言う希望を叶えてくれた。 どんな理由なのか、どうして私にそこまで関わろうとするのか、まだまだわからないことだらけだけど、今の自分にとって、あの家から出ることは救いだ。 だから正直に答えたのかもしれない。「少しでもいい」 一言、彼がそう呟いたあと、抱き起こされた。「これは真面目な話なんだけど、メニューの資料、ありがとう。あとでゆっくり見るから。ここまでしてくれるなんて、思ってなかった」 あっ、良かった。 私も気になっていたこと。「ごめんなさい。今時手書きでノートとか……」「本当はできるんだろ?苦手とか言ってたけど、基本的なパソコンスキルがないと、前の会社の事務なんて勤められないことくらいわかる。あいつが自分のパソコンとか使わせるとは思えなかったから……」 わかってくれてたの?「できることをやろうとしてくれた姿勢、俺は好きだから」 なんか、上司に褒められたみたいで嬉しい。「ありがとう」 それ以上の言葉が出てこなかった。 その後、彼の運転でベガへ移動し、店内の説明を受けた。 しばらく見学をし、その日は帰宅することになった。 明日からは直接ベガへ行くことになる。  加賀宮さんは<別件がある>と言って、途中移動してしまったが「何かあったら遠慮なく相談してくださいね」 別れる時、余所行き用の言葉を私に残してくれた。  孝介が居るはずの自宅へ帰宅する。 リビングへ向かい「ただいま」 声をかけた。 テレビの音がする。 孝介がソファに座っていた。「どうだった?」 もちろん<おかえり。お疲れ様>なんて言葉はかけてくれなかった。「今日は本社で説明を受けたあと、カフェに移動して、お店の中を見せてもらったくらい」「あっそ。なら良かったけど。何かあったら、事前にちゃんと報告しろよ」 孝介が言う<何かあったら>は、九条家の評価を下げるようなことをしてしまったらという意味。 私のことを心配して言っているわけではない。

  • Love Potion   過去 4

    「以上になりますが、何かご質問などはありますか?」 加賀宮さんは少し首を傾けた。 そんな動作も加賀宮さんの素を知らなかったら<素敵!>だと思ってしまいそう。「いえ。ありません。ありがとうございます」「では、これからベガへ移動をして……」 あっ。一応、現場に行く前に見せた方が良いよね。 私はバッグの中から自分なりにまとめた資料を取り出し、提示した。「加賀宮社長、御社のホームページなどを拝見させていただき、メニューについてはいくつか考えてきたものがあります。使用する食材、カロリー計算、作業工程など簡単にはなってしまいますが、まとめてきました。申し訳ございません。私、パソコンが苦手で。全て手書きになってお見苦しい点もあるのですが……」  そう伝えたが、パソコンが苦手なわけではない。 自宅には私が使って良いパソコンやタブレットがない。 孝介に買ってほしいとも言えなかった。  漫画喫茶とか、考えたけど、孝介が工面してくれるわけなかった。 相談したけど<お前、調子に乗るなよ。メニューができたら、はい、さよなら。の一回だけの依頼だろ。九条グループと親密になりたいから、加賀宮さんもお前なんか雇ってくれたわけで。もしそういうの使いたいなら、加賀宮さんに頼めよ。無駄な出費になるだけだし、俺は出さないよ> 予想はしていたが、私の頼みを聞いてくれるわけなかった。 加賀宮さんはメガネの奥で一瞬、目を見開いた。 <加賀宮社長>などと呼んだからだろうか。 私も呼んでみて、なんか気持ち悪かったけど、馴れ馴れしくするのも間違っている気がする。あくまでこれはビジネスだ。  しかしすぐにパッと彼は微笑み「ありがとうございます。ぜひ、拝見させていただきます」 私が提示したノートに目を通してくれている。 心の中の本音は、どう思ってるんだろう。「素晴らしいですね。事前にここまで調べてくださり、ありがとうございます。こちらのノート、一旦お預かりして、データを取っても良いですか?共有したいので」「はい。もちろんです」 そうだよね、データだったら印刷とか簡単にできるのに。 誰かの雑務、増やしちゃったかな。  その後、実際にベガへ移動して、店内の説明を受けることになった。「九条さんは、私と一緒の車で移動をします。平野リーダーと藤田

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